top of page

まるでおとぎ話 ~甘い手土産~

おはようございます。うみです。


私もまだ不慣れなHPですが、昨日は沢山の読者さまが遊びにいらして下さって嬉しかったです。お気軽にアトリエ便り(ブログ)にコメントもどうぞ!


エッセイで3日間書いていたSSを、一つにまとめておきます。




****



『まるでおとぎ話 ~甘い手土産~』



 横浜で学会があったので、帰りに『自由が丘駅』で乗り換えた。


 駅名の表示に、ハッとした。


 そう言えば……ここには最近流行している有名なお菓子が売っている『鶴屋万年堂』という店があるんだったな。


「よし、寄ってみるか」


 ふらりと途中下車して、店舗に立ち寄ってみた。


 店の前は大行列だ。相変わらず、すごい人気だな。


 ショーケースにずらりと並ぶ『ポボナ』は、メレンゲたっぷりの軽いクリームとふわふわのソフトカステラが美しい洋菓子だ。


 定番の味、チーズクリームとパイナップルクリームを5個ずつ買った。


 柊一は好きだろうか。雪也くんは絶対に好きそうだな。テツも桂人も以外と甘党だしな。


 皆、喜んでくれるか……


 帰路に着く足取りが、ふわりと軽くなる。

 

 世の中の父親って、いつもこんな気分なのか。


 家で待つ大切な家族の笑顔が見たくて、寄り道してお菓子を買ってしまうものなのか。


****


「美味しそう……」


 夕食後テレビを観ていた雪也が、うっとりとした声を出した。


「雪也、どうしたの?」

「兄さま、あれ……食べたいです」


 テレビCMでは、有名な野球選手がふわふわなブッセのようなお菓子を持ってニコニコと笑っている。


 あ、これって……確か。


「あぁ、玉選手が宣伝しているボボナだね。でもこれは自由が丘まで行かないと買えないし……売り切れになることも多いと聞くよ」

「そうですよね」


 まもなく手術を控える雪也は、風邪を引くわけにいかないので、この1週間外出禁止だった。そんな日々が続いているので……つまらなそうに、ほっぺたを膨らませてしまった。


「……お父様がいらした時は、そういえばよくお菓子をお土産に買ってきて下さいましたよね」

「そうだね。あ、じゃあ明日、兄さまが買ってくるよ」

「ううん、もう大丈夫です。僕……我が儘言って……ごめんなさい」

「雪也……」


 困ったな……後で海里さんに相談してみよう。


 そろそろお帰りかな。


 カーテンの端から外を見ると、人影が見えた。


 外灯に照らされた長身の男性は、海里さんだ!


 あ……あれ? 何か大事そうに手に持っている。


 あれって……あの袋って!


「海里さん!」


 外灯に照らされた海里さんが、僕の立つ窓辺を見上げ、手元の袋を見せてくれた。


「柊一に、お土産があるよ。鶴屋のボボナだ」


 やっぱり!


 あまりに嬉しくて、身を乗り出してしまった。


 なんてタイムリーなんだろう!


 海里さんは、やはり魔法が使えるのでは?


「柊一、危ないよ。さぁ、下においで」

「はい!、雪也も行こう!」


 雪也と手を繋いで、階段を降りた。


 焦る気持ちは置いて、雪也に合わせてゆっくりと。


 玄関の重たい扉が開くと、すぐに現れたのは、僕の王子さま!


「お帰りなさい! 海里さん」

「お帰りなさい、海里先生!あれ? それって……ボボナだ!」

「雪也くん、いい子にしていたかい? これはお土産だよ」

「わぁぁ、どうして分かったんですか。ちょうど今、兄さまと話していたんです」

「俺は、君たちのことが大好きだからね」

「嬉しいです! 海里先生、大好きです!」


 雪也は、昔、お父様に抱きついていたように両手を海里さんの首に回して、弾ける笑顔を浮かべていた。


「ははっ、そんなに喜んでくれるなんて」


 海里さんは片手で雪也を抱きしめ、もう片方の手で僕を呼んでくれた。


「柊一もおいで! 君も好きか」

「……あ、はい!」

 

 お父様に甘える雪也を、いつも壁にもたれて眺めていたが、今は違う。

 

 僕も呼んでもらえる。


 だから僕もあなたの胸元に――


 飛び込める!



 テツさんと桂人さんも加わって


 皆で食べたボボナはふんわり柔らかく、甘く……


 とても美味しかった。



                       

♡おしまい♡



閲覧数:147回4件のコメント
記事: Blog2_Post
bottom of page